−−朝鮮の食糧難の現状−−
 

●朝鮮の農業は容易に克服できない困難に直面している

 朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)では、世界の東西冷戦を終わらせた1990年代始めの共産主義圏の体制崩壊以後、旧ソ連や東欧諸国や中国との貿易など、それまでの経済関係が失われてしまい、経済の停滞、衰退が起こりはじめました。

 そこに、1995年から97年にかけて、100年に一度くらいといわれた大規模な洪水やそれに続く干ばつや台風などの自然災害が発生し、特に農業は壊滅的な打撃を受けてしまったのです。この間の朝鮮経済全体の衰退や農業生産激減のようすは、図1、図2からよく分かります。

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出典:図1は、UNDP(国連開発計画)による『朝鮮民主主義人民共和国の農業復興・環境保護に関する円卓会議(Thematic Roundtable Meeting)−農業の基本的発展』(19985月);
図2は、図1の出典と、
FAO (国連食糧農業機構)およびWFP(国連世界食糧計画)による『朝鮮民主主義人民共和国の作物収穫と食糧供給に関する特別報告書』
(
19981112日付け報告書、および、1999629日付け報告書)の数値から作成。

 

 ではなぜ、すぐにでも農業を復興させて食糧生産を元の水準くらいまで回復できないのでしょうか?

朝鮮の国土は大半が山地地域で、朝鮮半島でも南の韓国に比べてもともと農地はさほど多くはありません。したがって、朝鮮半島が分断されたのち、朝鮮では農地の少なさをおぎなってその人口に見合うよう出来るだけ多くの食糧を生産しようとしてきたようです。しかし、国際関係の変化や自然災害をきっかけに、もはやそうした農業を簡単に再建することが困難になってしまったわけです。その辺りの事情が詳しく述べられた国連の報告書から引用してみましょう。

 「朝鮮民主主義人民共和国における農業は、協同農場、国営農場として組織され、歴史的には主に稲とトウモロコシに関心が注がれてきた。食糧自給を果たすために農業の近代化が追求され、4つの主な増産要因、つまり、灌漑普及、電化、化学化(肥料・殺虫剤・除草剤など)、それに、機械化に重点がおかれてきた。70年代および80年代初頭には高水準の成功が得られた。…まったく当然なことに、こうした人工の投入物に強く依存した農業は、ひとたび資源の制約から高い投入水準をもはや維持できなくなれば、収穫の低下が起こりはじめる。なおその上に、近年の洪水、干ばつ、極度の寒冷つづきで、それまでの農業システムの混乱と崩壊、そして、生産の激減が引き起こされた。」

 「現地調査と聞き取り調査の際、調査団は肥料不足が食糧生産にとって最も深刻な問題になっていると知らされた。朝鮮民主主義人民共和国にある3つの肥料工場全体でかつて窒素肥料40万トン以上を生産し、それで肥料の自給には十分だった。しかし、設備の老朽化、不十分なメンテナンス、予備部品や原料の不足、そして特に燃料の不足によって、これらの工場の操業率は現在ひどく落ち込んでいる。」

 「この国の灌漑システムにおいてはエネルギーが決定的な要素である。主要な水路と溜池にポンプで水を流し込まなければならないのだが、使える燃料が減りつつある。その上、自然災害で水路とポンプ場の状態が、どこもひどい状態になっている。」

 「高度に機械化されていた朝鮮民主主義人民共和国の農業は、農業機械や農機具の動力のおよそ5分の4が老朽化し、部品や燃料の不足でそれら農業機械が用いられないために、深刻な制約に直面している。現地調査のあいだ、調査団はたくさんのトラクター、田植え機、トラック、それに他の農業機械が使われないか、使えないで放置してあるのに気付いた。」(以上の引用はいずれも、上記FAO およびWFPによる『朝鮮民主主義人民共和国の作物収穫と食糧供給に関する特別報告書』(19981112日付)より。)

 そこで、国連は、199911月に「朝鮮で何が起こっているのか?」と題して、次のような声明を発表しました。

 「朝鮮民主主義人民共和国における人道的な危機は、工業が優勢だったこの国を深刻な工業停滞に至らせたような、旧ソ連と東欧社会主義圏との同国の歴史的な交易関係の終焉の結果である。工業生産と輸出収益の低下は、やがて工業化された農業部門に影響を及ぼし、一連の自然災害とあいまって食糧安全保障の面で予期せぬ深刻な事態に陥らせる結果となった。(国連人道支援局(OCHA)『朝鮮民主主義人民共和国への2000年度援助のための合同要請点描』(19991122日)より。)

 

●子どもたちの栄養状態が食糧難の実態をいちばんよく表している

 こうした農業の困難=食糧生産の低迷が、朝鮮に深刻な食糧難をもたらしてきました。そして、数年におよぶ飢饉で多くの人々の生命が犠牲になっただろうと言われてきました。けれども、その実態は定かではありません。この点について、19981210日付のニューヨーク・タイムズの記事では次のように述べられました。

 「飢餓に関係した死亡の問題を調査できた援助団体はない。…だが、大抵の専門家らは、おそらく100万人以上が、ことによると300万人もの人々が食糧不足が始まって以来、早死にしたのでは、という見方で一致している。しかし、公衆衛生の専門家によると、いずれにせよ死亡者数を勘定するのは難しい。なぜなら、大抵の死亡者の死因は、おそらく急激な飢餓からではなく、何年かの飢えのために免疫力が弱まることからであり、その結果、普通の風邪でもごく簡単に重症の肺炎になってしまうし、また通常の伝染性の下痢患いが致命的になってしまうからだ。」

 朝鮮の食糧難の実態を垣間見させる最も客観的な情報は、199811月に朝鮮各地で行なわれたユニセフ、WFP(国連世界食糧計画)、それに、欧州連合からの合同調査団による生後6ヶ月から7歳までの子ども達に対する栄養調査の結果です。それによると、全体の16%の子どもが急性の栄養失調でひどく衰弱しており、62%もの子ども達が多かれ少なかれ発育不良(慢性の栄養失調)だということが判明しました。(『朝鮮民主主義人民共和国政府と共同して行なわれた欧州連合、ユニセフ、世界食糧計画による栄養調査の報告書』(199811月)参照。)

 この栄養調査では、ユニセフなどが採用している測定方式にしたがって測られた子ども達の年齢ごとの身長や体重により栄養失調の罹患率が確定されました。そこで、全体で62%と判定された子ども達の発育不良の状況とは、別の言い方をすれば、もし朝鮮の7歳以下の子ども達が普通に食事を取って成長していれば、1000人のうち5人くらいしかいないほどの稀なケースの、うんと低い身長が、現在の朝鮮の子ども達の平均身長だというものでした。

 こうした調査結果を踏まえて、栄養調査の報告書はその末尾で、「子ども達の人口全体が危機にさらされていることを告発している」と結びました。また、先にふれたニューヨーク・タイムズの記事は、「朝鮮の子ども達の世代は、すでに一生の傷を負っている。私たちは、さらに深刻な大惨事になるのを防ぐために資源を動員しつづけなければならない」という、アストリッド・ハイバーグ国際赤十字連盟総裁の談話を載せました。

 

●国際社会は人道的食糧支援を続けている

 こうした状況を受けて、国際社会は、各国政府や民間からの寄贈や募金を通じて朝鮮に対する人道支援を続けてきました。なぜなら、朝鮮の人々の食糧難の問題は、現在の世界の最も大きな人道問題のひとつであり、朝鮮自身が自らだけでは対処できないくらい困難な状況が続いてきたと見なされているからです。そして、国際社会からの人道支援は、主に、WFP、ユニセフ、国際赤十字連盟などの国際機関や、さまざまなNGOを通じて行なわれる食糧援助や医療援助などの形を取っています。特に食糧援助では、一部の政府間援助をのぞき、大部分はWFPを通じて綿密な計画のもとで援助されています。図3は、1995年以来の朝鮮の穀物不足量と海外からの食糧援助の推移を示したグラフです。

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出典: FAO およびWFPによる『朝鮮民主主義人民共和国の作物および食糧供給に関する特別報告書』(1999118)

 けれども、こうした国際社会からの人道支援について、食糧援助は本当に必要な人々に届いておらず、朝鮮の権力者層や軍部が横取りしているのではないか、というような批判をする人々もいます。しかし、そうした批判は、十分な根拠に基づいているとは言えません。

 この点に関して、1999516日付の国連人道支援局の広報、『朝鮮民主主義人民共和国の人道情勢報告:1999415日〜515日』の中では、次のように述べられています。

 「同国におけるWFPの計画を吟味し、危険にさらされやすい集団のために何がなしうるかを検討するため、199954日から10日まで援助国側からの視察が行われた。視察団に参加した援助国は、オーストラリア、デンマーク、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、スイス、それに、アメリカであった。…視察団のメンバーは、彼らの議論と所見に基づくところ、なお一般に深刻な食糧難が続いていること、WFPの食糧援助が意図された受益者たちに到達していること、そして、国際援助が朝鮮における食糧危機の安定化に寄与していることに納得した。

 つまり、国際社会からの食糧援助は、それが必要な人々に間違いなく届いていると判断されているのです。 

 

●食糧不足の不安はなおも続いている

 食糧難の問題が援助によってなんとかしのげているなら、それならもう安心してよいのではないかという疑問があるかもしれません。けれども、実はそうではありません。上の引用文にもある人道食糧援助の「受益者」とは、1997年までは6歳以下の乳幼児を中心とした470万人のことであり、1998年にその対象が10歳以下の子ども達、入院患者、それに妊婦や授乳女性を含めた670万人に、そして1999年から、それらの人々に加えて、栄養補助食が配給される17歳までの学校生徒やお年寄りも含めた対象者804万人に、というように、少しずつ徐々にその範囲が広げられてきたものなのです。朝鮮の人口およそ2350万人のうちのそれ以外の人々には、何ら特別な食糧援助はありません。この点に関しては、FAOおよびWFPの1999629日付の報告書は、次のように述べています。

 「食糧援助が供与されるセーフティ・ネットでカバーされない集団として、工業労働者、事務労働者、専門労働者たちやその一般の家族などが該当するが、これらの人々はWFP配給分を受け取るメンバーではない。(上記、図2の出典。)

 では、人道食糧援助の「受益者」でない一般の人々は、どうやって食べているのでしょうか。農業に従事している630万人ほどの人々には、以前より少ない量ではあるものの、その必要消費量を収穫作物から優先的に配分されています。それは、農業生産活動を最優先にするためのようです。問題は、農業以外の、人口のかなりの部分をしめる工業労働者や事務労働者などの一般世帯員の食糧事情です。これらの人々は、まず、政府からの食糧配給に頼るしかすべはありません。それ以外には、農民から多少分けてもらって買ったり、野生の食物を探したり、何とかして、少しでも不足分を自力で調達しなければならないのです。

 しかも、食糧の入手のしやすさにおける地域間格差もますます問題となりつつあります。図4はそのことをよく示しています。

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出典:図3に同じ。

 

 食糧難の地域間格差については、FAOおよびWFPの1999629日付の報告書は次のように記しました。

調査団は、工業地帯で、また、限られた農業しかない同国北東部地域の住民の栄養状態に重大な懸念を表明するものである。

 このように、朝鮮の食糧難は、現在もなお深刻な状態が続いており、なお多くの人々の関心と支援を必要としているのです。(20002月現在)

(文責・李修二)


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